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クールジャパン伝統化粧の世界  日本人に流れる美のDNAデータ

「クールジャパン」とは、国際的に評価されている日本の文化。

この連載では、“クール”な化粧の歴史文化をひも解いていきます。

【第4回】見えない化粧「香り」

菊文お歯黒道具
伏籠 内部に置いた香炉で香を焚き、伏籠の上からきものをかけて香を移した/ポーラ文化研究所蔵

江戸時代には室内芳香料として、種々の動植物香料から作った薫物(たきもの)を焚いたり、香り自体を身にまとった。
当時の美容バイブル『都風俗化粧伝』では、植物香料の丁子(ちょうじ)、甘松(かんしょう)、白檀(びゃくだん)、茴香(ういきょう)、龍脳(りゅうのう)などをまぜて絹袋に入れ、室内に掛けたり、首から掛けて携帯する掛香(かけごう)を紹介している。
特に夏には、汗臭さを除き、きものによい香りを漂わせる風情ある嗜みとしている。湿度の高い日本の夏を清々しく過ごすクールビズともいえる効果的な使い方である。
また、香りは箪笥に入れて、きものへ移したり、伏籠(ふせご)の上にきものをかけて、なかの香炉(こうろ)で香りを焚いて留めたりする使い方もあった。伏籠や香炉は、大名の婚礼化粧調度に納められるほどで、女性の嗜みとして香りが大切だったことがわかる。
また伏籠は、歌舞伎で有名な「菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)」では、菅原道真が大宰府に左遷される際、娘がきものを掛けた伏籠に隠れて同行したいと請うという、親子の愛情表現にも登場するように、親しみのある道具だった。
もうひとつ香りの使い方として、当時は髪に香りを移すことも行われた。香りを焚いて髪にくゆらせたり、木や陶磁器、竹製の香枕(こうまくら)の香炉で炊いて髪に香りを移し、鎮静効果を得た。
現代では、香りをつけるというが、日本では古くから、空間に香りを焚くことを空薫(そらだき)、衣服には移す、留めるといった。さらに香りは移り香で誰なのかわかるというように、アイデンティティーを表すもの、コミュニケーションツールとして人と密接な関係にあった。
日本には、こうした穏やかな香りを慈しむ長い歴史があり、人と香りが一体となった空間の文化があった。見えない化粧である香りは日本美のエスプリが凝縮されていると思う。

*繊研新聞2015.4.14掲載「連続小講座クールジャパン伝統化粧の美」ポーラ文化研究所所員津田紀代より加筆修正

次回の更新は11月25日の予定です。

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